「世にも奇妙な人体実験の歴史」を読んだ

ふぐをはじめに食べた人は凄いとよく言ったりするが、よくよく考えてみると新種の病に対する薬だって実際に誰かに試してみないと本当の効果はわからない。

この本ではそうした科学者が直面してきた技術の"初めて"を経験してきた人々とその技術についての物語が全17章に分けて紹介されている。

今では当たり前となっている心臓の手術で用いられるカテーテル(心臓を切開せず血管から心臓に管を通して行う手術)を発明した医者なんかは血管を切開して管を心臓まで通すという聞いただけでも力が抜けそうな実験を自分の体でやっている。

一方で18~19世紀では貧困街の人々や刑務所に服役している人々が当たり前のように人体実験に使われている。

彼らには秘密で安全かどうかもわからない新薬が処方されたり、伝染病の症状を観察するため菌を投与したり非人道的なことが日常的に行われていたらしい。当たり前だがたくさんの人が死んだ。

現在では当然のように使われている技術はこうした自らを危険に晒してまでも実験を試みたある意味でヤバイ人々と無慈悲な人体実験の犠牲になったたくさんの名も無き人々の上になりたっていることに気づかされる。

またどの時代でもそうだが、新しい技術が開発されるとそれを批判し、従来のやり方の方が正しいと言って嫌がらせをしてくる人間がいる。麻酔薬が開発された時は「痛みこそが重要なのだ」と謎の主張を唱える痛み派なるものが生まれたし、長い船旅で壊血病(ビタミンC不足で発生する病気)が流行した時は「異国の柑橘類は毒だ」という学者達によって柑橘類の摂取が妨げられたりしている。

新しい技術が生まれた時に"それをどう受け入れていくのか"という人々の態度には現代でも考えさせられるものがある。

本書では他にも「自ら水中で爆弾を爆破させてどういう理由でダメージを受けるか実験する博士」や「世の中の生き物を何でもかんでもとにかく食べた人」の話など偉大なヤバイ人たちの話が多数収録されてるのでちょっとマッドなサイエンティストの話が好きな人には特におすすめです。