「翻訳地獄へようこそ」を読んだ

何を読んだ?

なぜ読んだ?

翻訳家という人の仕事について知りたくなったので。

目次は?

  • 1章 翻訳基礎トレーニング―注意深く読み適切な訳語を見つけだそう
  • 2章 翻訳フィールドワーク―背景となる文化や歴史や地形を徹底調査せよ!
  • 3章 翻訳実践ゼミナール―「表現」の翻訳を目指し試行錯誤の日々を送ろう

どんな本?

翻訳家を目指す人達向けの導入本。

著者の豊富な知識と経験に裏打ちされた、翻訳とはかくあるべしみたいな話やあるあるネタが随所に散りばめられたエッセイ。

彼が読んできた洋書や日本語訳本について触れ、その中から面白い一節をあげて語るという文章が結構多い。

例えば、こんな小話が載っている。

「"Why, children," said Mrs Banks, noticing them suddenly, "what are you doing there?" This is your new nurse, Mary Poppins.」という文。これは有名なメリーポピンズの一説だが、

「『あら、みんな』とバンクス夫人は、子供達に初めて気が付いて言いました。『そんなところで何しているの?』こちらは新しい看護婦のメアリー・ポピンズよ」と訳してしまうと全く意味がわからない。

nurseという単語はもっとも誤訳されがちな単語で「看護師」という意味の他に「乳母」とか「保母(子守/家庭教師)」みたいな意味がある。ここでは看護婦と訳しているところが間違いで「家庭教師」が正しい。

nurseという簡単そうな単語一つとっても文脈を理解していないと途端にヘンテコな文章になってしまう。簡単な単語ほど注意せよ!

、といった具合。

翻訳家というのは外国の言語を日本語に置き換えるだけではなく、文章が表現しようとしている状況や発想そのものを日本語で表現するのが仕事。そのためには翻訳対象になっている本の内容のみならず、英語圏独自の文化や慣習への理解が必要となる。非常に多くの知識を要するとても高度な仕事だということがわかる。

それにしても翻訳家という人はいくつもの辞書を持っていて、それを「使う」のではなく「読む」ものなのだなあと思わされる。オックスフォード英語辞典やリーダーズ英和辞典やランダムハウス英和辞典とか。一体何冊持ってるんだ。

辞書だけじゃなくロンドン百科事典(ロンドンの古今東西の地名とその由来がすべて収録されている本)とかUncommon Ground: A word-lover's guide to the British landscape(英国特有の地形や風景を表す特殊な単語を並べて写真付きで説明してる本)みたいな図鑑まで読んでいるようだ。

いやでも博識になってしまう気がする。

翻訳家というと「戸田奈津子訳」という言葉が一人歩きしていて「悪訳」の別称みたいな使われ方をしているのをよくみるのだけど、自分はこの風潮があまり好きではない。もしひどい訳だったとあまりにも軽率にバカにしすぎなのではないかと思うので。

話は少しそれたが、この本は翻訳家という仕事の奥深さの一端を垣間見ることができるとても良い本なので、時間のある人は読んでみると良いと思いました。

誰におすすめ出来る?

翻訳家という仕事は外国語を日本語訳することだと思っている人。

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